新人が辞めない現場の条件、 それは「居場所」があること
新人が辞めたとき、現場ではこんな言葉が飛び交いがちです。
「やる気がなかったんだろう」
「思っていた仕事と違ったんだろう」
「この業界に向いてなかったのかも」
けれど、長く人を育てる立場にいると、
そう簡単に片づけてはいけない、と分かってきます。
「居場所がわからない」時間
多くの場合、辞めた理由は、能力でも根性でもありません。
もっと手前の、誰もが口にしないところに原因があります。
それは——
「ここに居ていいのか分からない時間」
が、あまりにも長く続いたこと。
居場所が分からないと、人は前に進めないものです。
初めての【場所、仲間、仕事、規則】。
新人は、そのすべてを一度に背負わされます。
けれど周りから見れば、「新人が来た」それだけのこと。
ここに、大きな温度差があります。
新人の頭の中で起きていること
本人の中では、
・何を優先すべきか分からない
・初歩的なことを聞いていいか迷う
・忙しそうな先輩に声をかける恐怖
・間違えたら評価が下がるという不安
そんな思いが、頭の中をぐるぐる回っています。
だから、手が止まる。
動きが遅くなる。
ミスも増える。
「能力不足」に見えてしまう瞬間
すると今度は、
「覚えが悪いな」
「主体性がないな」
という目で見られてしまう。
でも実際は、能力が足りないのではなく、安心が足りないだけ。
人は、
「ここに居ていい」
「失敗しても戻ってこられる」
そう感じられて、はじめて本気で動けるのです。
人が残る現場は、最初に「関係」をつくる
新人が定着する現場には、共通点があります。
それは、仕事を教える前に、関係をつくっていること。
たとえば、
「分からなかったら私に聞いてね」
「今日はここまで分かれば十分だから」
「最初は誰でも失敗するから大丈夫だよ」
そんな一言を、きちんと言葉にして伝えている。
たったそれだけで、新人の表情はまったく変わります。
人は、「正解」を知っているから安心するのではなく、
「聞いていい場所」があるから安心する。
ここを押さえている現場は、強いのです。
新人が萎縮していく現場の共通点
逆に、
・忙しいから後で
・空気を読んで動いて
・とりあえず見て覚えて
これが当たり前になると、新人は学ぶ前に、遠慮と萎縮を覚えます。
・質問しない。
・相談しない。
・失敗を隠す。
その結果、周りからは「何を考えているか分からない人」
に見えてしまうのですが、本人は、
「自分は向いていないのかも」と思い込む。
…そしてある日、何も言わずに辞めていく。
これは、珍しい話でも、特別な話でもありません。
最初の一週間は、その人の未来を決める
新人を迎えるとき、制度やマニュアルがなくても、本当は大丈夫です。
必要なのは、最初の設計を、少しだけ意識すること。
たとえば、次の三つ。
1)頼っていい人を決めておく
「この人があなたの窓口です」と明確にする。
2)数日の流れを先に伝える
「今日はこれ」「明日はここまで」と見通しを与える。
3)何度でも聞いていいと、はっきり言葉にする
当たり前と思わず、あえて伝える。
安心が生む、前向きな行動
これだけで、新人の中に生まれるのは、
「分からなくても大丈夫」という安心です。
人は安心すると、自分から動こうとします。
メモを取ったり、工夫しようとします。
逆に、不安なままだと、言われたことしかできなくなり、
少しの失敗で心が折れてしまうのです。
「お試し期間」ではなく「分かれ道」
最初の一週間は、お試し期間ではありません。
その人が、ここで踏ん張れる人になるか、
それとも、静かに去っていく人になるか…、
未来への分かれ道なのです。
人は、役に立てていると感じるから残るのではありません。
自分は、ここで必要とされている。
この人たちの一員なんだ。
そう感じられるから、多少つらくても、もう一歩踏ん張れるのです。
順番を間違えないということ
最初から
「いつ戦力になるか」
「どれだけ早く一人前になるか」
そればかりを求められると、
新人は、まだ居場所もないまま、結果だけを背負わされてしまう。
それは、根が張る前に、大木になることを求めるようなもの。
まず根を張る。
つまり、人として迎えられ、仲間になる。
その土台があって、はじめて技術も、責任も、成果も育つ。
順番を間違えてはいけません。
新人が辞めない会社、人が育ち続ける組織とは、
優秀な人材が集まる場所でも、給料が高いわけでもありません。
人を迎えるときの姿勢が、ほんの少し丁寧なだけ。
組織の未来をつくる、たった一つの問い
次に新人を迎えるあなたに、一つだけ問いを残します。
この人が、一日の終わりに、
「ここに来てよかった」
と思えるとしたら、
それは、どんな一日だろうか。
その一日を思い描き、ほんの少し設計すること。
それこそが、組織の未来をつくる、確かな一歩なのだと思います。











